2010年3月6日土曜日

[論文]進化生物学者への呼びかけ

Evolutionary Biology in Biodiversity Science, Conservation, and Policy: a Call to Action
Hendry et al. 2010 Evolution

進化生物学者は問題解決のためにもっと社会と関わっていくべきである、という意見を表明した論文。

共著者の数は18人。名の知れた進化生物学者の名前が見られます。

今まで進化生物学者は、生態学者などに比べて、自分たちの知識を社会の役に立てるための積極的な活動をあまりしてこなかった。しかし、現在の生物多様性の損失などの問題に対応するには進化生物学の知識は社会にとって不可欠である。そこで進化生物学者はそれらの問題解決のためにより積極的に知識を提供していこう、というのが全体の内容です。

進化生物学者が関わっていくべき分野は、以下が挙げられていてます(3と4は実際には一体になっている)。

1) 多様性の記述。分類学や系統学は多様性を記述する学問であり、生物多様性の理解の基礎になる。現代ではより簡単に誰でもアクセスできるデータベースの構築も含まれる。

2) 多様性の起源を理解する。現在の生態系は進化的時間の中で形作られており、その起源となるプロセスを理解することが、保全の優先順位の決定や人間活動の与える影響を予測する基礎になる。

3&4) 人間活動によって起こる進化とそれが生態系にあたえる影響の理解。人間活動が従来考えられていたよりもずっと速い生物の進化を引き起こすことが近年知られてきた。また速いスピードで起こる進化が生態系に与える影響の研究も行われている。その2つをあわせ、生物の人間活動への進化的反応と、そこから生じる生態系への影響を理解することが、生態系の保全をはかる上で欠かせない。

以上の4つのことで進化生物学者は社会に貢献できるとのこと。

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進化生物学がなんの役に立つのか、と聞かれたら、僕はは少し答えに窮してしまいます。役に立たないけど興味深いです、と答えるかもしれません。(もちろん役に立つ進化の研究をしている研究者は多くいますが)

この論文はそんな進化生物学者が社会に貢献できる分野を、流行の生物多様性の問題とからめて、上手く整理して挙げていると思います。自分自身やや同僚がやっている研究も上の4つの領域の少なくともどれか1つには当てはまるように見えます。

進化生物学は生物の多様性の起源を探る学問である、と聞いたことがあります。そのことと生物多様性の重要さを考えあわせると、役に立たないというほうが本当はおかしいのかもしれません。(もしかしたら"生物多様性"という概念自体、生態学者や進化生物学者が役立たずであるという考えを払拭するために作られたのかもしれませんが)

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