2010年3月11日木曜日

[論文]ソローの森と絶滅のリスク

Phylogenetic patterns of species loss in Thoreau's woods are driven by climate change
Willis et al. 2008 PNAS

気候変動による絶滅のリスクは系統樹上の特定のグループに偏っており、同じく偏りがある気候変動に対応する能力との間に相関関係があることを示した論文。

『森の生活』で有名なナチュラリスト、ヘンリー・D・ソローはアメリカ、マサチューセッツ州のコンコードの森で何年にもわたって植物の分布や花の開花次期を調べ、その記録を後世に残したそうです。そのコンコードの森は現在大部分が保護区に指定され、現在も植物の分布の調査が行われています。驚くべきことに森の60%が保護されているにも関わらず、27%の植物種がソローの時代から150年の間に失われたとされています。

そこには地域レベルの環境破壊の影響だけでなく、グローバルな気候変動の影響があると考えられます。

気候変動の影響は特定のグループの植物により大きく現れることが知られています。このような進化上近縁にある種がランダムが予測するよりも似通った特徴をもつことを、系統上での保存性(正しい日本語訳は知りません、phylogenetic conservertism)といいます。

この研究では特定のグループ内の種に共有される(すなわち系統上で保存される)特徴が、絶滅のリスクといかに関係しているかを調べています。

150年前、100年前、現代に行われた大規模な植物相の調査の結果と調査でみつかった植物の系統関係から、筆者らは、植物の開花次期の変化、開花次期の気温に対する反応とアバンダンス(生物の存在量のようなもの)の変化はともに系統樹上で保存されていること、そしてそれらに相関関係があることを示しました。

具体的には、顕著に個体数が減少したのはキクやランといった特定のグループに含まれる種でした。また開花次期が150年間で変化していない植物は個体数が減少し、冬の気温にあわせて開花次期を変化させる能力がある植物の個体数はあまり減少していませんでした。

この結果から、気候変動の生態系への影響を予測するとき、生物種の気候変動に対して反応する能力を考慮する必要があると筆者らは主張しています。

また系統上保存される特徴と絶滅のリスクの関係は、過去に起こった大量絶滅のパターン、特定のグループが大量に絶滅する、を説明する可能性があるとも述べています。

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面白い論文だと思います。
有名なナチュラリストであるソローが調査したフィールドを対象にしたこと。気候変動の影響というタイムリーなトピックであること。そして、気候変動の影響を受けると思われる特徴(開花次期)を上手く選んで、それがグループごとに偏っておこる個体数の減少を説明することを示したこと。

まず、ソローの時代と比較して4分の1もの種が森から姿を消している事実に驚きました。このことは自然保護区などによる環境保護の限界を示しているのかなと思います。

そして、系統上のグループで共有される特徴が、非ランダムな絶滅のリスクを説明するというアイデアは、筆者が述べているように、他の生物にも広く適用できそうです。


いくつか気になった手法上の点をメモしておくと、
-不完全な系統樹を使って変数間の相関関係を調べていること
-アバンダンスの変化という進化しないと思われる特徴のconservatismを調べていること
このあたりの妥当性はちょっとよくわからないので、次の勉強の課題です。進化しない特徴でも、系統樹上での偏りは調べられそうな感じはしますが。

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