2010年3月15日月曜日

種分化の原動力-2

先日のエントリではこちらの論文を紹介しました。

この論文はそのセンセーショナルな内容のためか、さまざまな場所で取り上げられたようです。

先週のNew Scientistの表紙を飾った記事、

Accidental origins: Where species come from -New Scientist

やNature Podcastのインタビュー、大学でのジャーナルクラブ(論文の輪読会のようなもの)のお題になったり、日本のブログでも取り上げている記事がありました。

赤の女王仮説 -サイエンスあれこれ

比較的良く知られているように、ダーウィンは著書『種の起源』の中で種分化の原因を必ずしも明確に説明していません。ダーウィンは自然選択によって適応的な進化がおこることを明確に示しました。しかし種分化については異なる適応の結果、異なるタイプの生き物のグループ、すなわち新しい種、が生まれるのは自明であるようにあつかっていたと記憶しています。(うろおぼえですが)

しかし、この論文の結果は自然選択は種分化の主原因ではない可能性を示しています。

論文内の印象的な部分を引用してみると、
"通常、種分化の後徐々におこる遺伝的な、もしくはその他の変化は、生殖隔離を引き起こしたイベントの原因であるよりは結果のようである"
と、筆者らは述べています。

この考え方は、"種分化は適応的な変化によって徐々に引き起こされる"という従来の考え方に反しています。その点がメディアなどで取り上げられた理由だと思います。

しかしこの結果には納得のいく部分が多くあります。

まず自然のなかで実際に観察される種分化の痕跡は、ほとんどが稀なイベントの結果と考えられているからです。たとえば、地理的な隔離や離島への稀な移住のイベント、染色体数の変化などはすべてこれらに当てはまります。それに加えて生物の移動能力(稀なイベントの起こりやすさと考えられる)が種分化の頻度と関係があることも知られています。

ガラパゴス諸島のフィンチのように明らかに自然選択による適応の結果、種が分化したように見える例も存在します。しかし、このような明確な例はそれほど多くみつかっていません。(それを支持するとされる間接的な観察結果は多くあると思いますが。)

また、ショウジョウバエなどをつかった種分化と自然選択に関する研究も、選択を受けるハエのグループ間はすでに隔離されていることが前提になっています。

自然界において"自然選択の結果徐々におこる種分化"があまり観察されないのは、そもそもそれがあまり起こっていないからかもしれないというのは筋が通った考えだと思います。

しかし同時に種分化のプロセスが完全にランダム性のみに支配されているというのも、少し居心地の悪い気がします。

上のNew Sceintistの記事の中のDaniel Raboskyの指摘は的を得ていると思います。
"隔離の原因になることと分化の原因になることの2つが必要である"
もし隔離のイベントが起こったとしても、完全な分化は自然選択無しでは起こりえないかもしれません。Pagelのいう"稀なイベント"がどれだけ稀であるかは、自然選択の存在によって決定されるのかもしれません。

いずれにせよ、筆者らがいう"稀なイベントのカタログのサイズを知ること"は種分化の研究の重要なポイントになると思います。

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