2010年3月8日月曜日

[論文]グッピーの進化と生態系への影響

Local adaptation in Trinidadian guppies alters ecosystem processes
Bassar et al. 2010 PNAS


生態系のプロセスに、短期間で起こった進化がどのような影響を与えるかを実験で確かめた論文。

筆者らは、異なる環境で異なる表現形を進化させているグッピーを使って、進化がどのように生態系のプロセスに影響を与えるかを確かめる実験を行いました。

具体的には、2種類の環境(ここでは肉食魚による捕食圧の違い、HP: high predation, LP:low predation)から持ってきた、異なるタイプのグッピーを同じ環境のメソコスム(自然を再現した大きな水槽のようなもの)に入れて4週間飼育し、藻類や無脊椎動物の存在量や窒素やリンの存在量といった生態系のプロセスを示す量を比較しました。

その結果、高い捕食圧の下(HP)で進化したグッピーを入れたメソコスムでは低捕食圧(LP)のものと比べて藻類による生産性は多く、落葉の分解のスピードや無脊椎動物の存在量は少なくなることが観測されました。

これらの違いは、HPとLPのグッピー間の個体群の密度の違いによって生じた採餌行動やNH4の分泌量の違いが連鎖的に生態系に影響を与えた結果であろうと筆者らは述べています。また実際のHPグッピーが生息する環境では高い藻類の生産性が観られ、捕食者とグッピーの相互作用が生態系の生産性に影響を与えている可能性を指摘しています。

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はじめにこの論文のタイトルを見たとき、実際の進化をメソコスム内で起こしてその影響を調べる実験を行ったのか思ってちょっとドキドキしましが、実際には既に進化したとわかっている2種類の表現形を使ってその影響を調べたものでした。

直接進化を起こしたわけではなくても、その結果はとてもにおもしろいと思いました。

特に、結論で筆者も述べているように、生態学ではある種の個体は基本的に生態系内で同じ役割を果たすことが暗黙の内に仮定されていました。しかし、それが非現実ではないかとも言われてきました。この実験では、実際に異なる環境下で進化したグッピーの個体群は、生態系での役割も変化させることを示しています。

この結果は今まで静的に捉えられていた食物網や物質の流れは進化によって動的に変化すると言い換えるられるかもしれません。

進化生物学と生態学を統合する研究はこの研究に限らず最近の流行のようです。

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