2010年5月17日月曜日

[本]Why Evolution is True - 進化は真実か

Why Evolution is TrueWhy Evolution is True
Jerry A. Coyne

進化生物学者ジェリー・コインによる、現代の進化生物学についての解説書。邦題は「進化のなぜを解明する」。原題にあるように、進化が真実として認められている理由を進化生物学の様々な分野で積み重ねられた証拠をもとに解説していきます。

本の構成は最初の1章が、進化とはなにか、という進化の理論の基本的なアイデアについて。その後の2-4章はすでに知られている進化の証拠を、古生物学、発生学、生物地理学の3つの分野から紹介していきます。続く5-7章は進化のメカニズムについて。自然選択や種分化の理論の基本的な説明と近年の研究結果の紹介が主な内容です。最後の8-9章は人間の進化と進化論の人間社会への影響についてです。

本全体に進化理論は"検証可能な予測が行える"科学であるという考え方が貫かれており、文中のいたるところで理論に基づく予測とそれを支持する観測結果が進化の証拠として示されます。進化が科学的事実であるのは、進化の理論が充分にそれを支持する検証結果を積み重ねてきたからである、というのが筆者の基本的姿勢だと思います。

進化の証拠としては、化石、痕跡器官、生物の地理的分布と幅広く、かつ最も多く研究が行われている分野の研究結果がカバーされています。現代の進化生物学者が行っている研究を理解するのに最適の内容だと思いました。

ただ、この本が進化論を信じない人々を説得するのに充分か、と問われるとやはり疑問が残ります(おそらくそれがこの本の1つの目的だと思いますが)。筆者身が述べている通り、
The evidence is convincing, but they are not convinced.
証拠は納得するに足るが、納得していない。
だと思います。たぶんそこには「理解すること」や「信じること」の複雑な本質があるのではと思います。それと同時にアメリカの進化生物学者が向き合っている問題の難しさを感じます。

科学者はある理論が正しい理論であると判断することができますが、科学の理論を「信じる」ことはあまりないと思います。証拠によって支持された理論が正しいと判断することと、それが正しいと信じることは本来別のことです。しかし科学的事実にとってはそれほど重要でないことも普通の人にとっては重要かもしれません。特に信仰を持つ人にとっては。

少し長いですが筆者自身の意見として印象に残った部分を引用します。
It's not that we evolve from apes that bothers them so much; it's the emotional consequences of facing that fact. And unless we address those concerns, we won't progress making evolution a universally acknowledged truth.

我々が猿から進化したことが彼らを悩ますのではない;その事実に直面することの感情的帰結こそが問題なのである。その懸念に対応することなしには進化を一般的に認知される真実とすることはできないだろう。
進化生物学者が研究の結果の社会への倫理的な影響にまで責任を持つべきかどうかは難しい問題だと思います。また、たとえ科学者が説明を尽くしたとしても、人によっては進化が「信じる」に足るものとなりえないかもしれません。

このような困難な部分を除けば、非常によい進化生物学の入門書だと感じました。(実際には筆者の研究者としてのキャリアを考えれば"非常によいと思う"とかいうのもおこがましい感じです)

どちらかというと、進化論の布教のための本というより、良い進化生物学の教科書として学生や研究者に読まれるべき本だと思いました。

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