2010年5月10日月曜日

海洋保護区問題-イギリス的な理屈

少し前になりますが、こんなニュースがありました。

UK sets up Chagos Islands marine reserve - BBC News

イギリス政府がインド洋に保有する領土、チャゴス諸島、を海洋保護区にするというものです。新たに創設される保護区内には商業的な漁業を一切禁止する領域が設定され、保護区全体の面積は50万平方kmで世界最大になるということです。またチャゴス諸島には200種類以上のサンゴと1000種以上の魚類が生息しており、世界でも有数の生物多様性が存在しているそうです。

生物多様性条約の締約国会議が今年行われることもあり、イギリスもそれにあわせて積極的な保護活動を行っているのかな、とNature podcastで聞きながら考えていたのですが、このニュースには続きがありました。そしてそれはとてもイギリスらしいものでした。

このチャゴス諸島にはイギリスから土地を貸与された米軍の基地があり、1960年代に基地の建設のために島の住民を無理やり退去させた、という歴史があるようです。その住民は今なおイギリス政府と島への帰還を巡って裁判を行っています。そして住民には、保護区の設定はイギリスによる島の領有を永続化するための方便に過ぎないと捉えられており、反発を招いているということです。

調べてみると、この決定に批判的な記事がいくつか見つかりました。

Chagos Islanders attack plan to turn archipelago into protected area - guardian.co.uk

Fury of Chagos islanders as Britain creates world’s largest marine nature reserve - Times Online

例えば上の記事の中で、保護区案に反対のモーリシャス政府の人物は”イギリス政府の計画は帰還を阻もうとするグロテスクなほど見え透いた計略”である、と批判しています。このほかにも”イギリス政府はチャゴス諸島の住民にはウミウシ程度の人権も認めていない”といった厳しい批判もあります。一方で、保護に賛成する環境保護団体は”もしチャゴス諸島住民が帰還したときに、彼らが資源を利用できるようにするのが保護の目的である”と、述べていたりします。
 
この問題をどのように解決されるべきかという意見は僕は持ち合わせていません。僕が偶然知らなかっただけで、長い歴史がある問題のようです。(おそらく選挙と政権交代の影に隠れて批判はうやむやのまま計画が進むのだと思います)

しかしこの問題はイギリスでしばしば見かける典型的な理屈がよく表れている例だと思います。他の例を挙げると、有名な大英博物館のパルテノン神殿の彫刻の問題があると思います。パルテノン神殿の彫刻群は長くギリシャ政府から返還を求める声があります。それを大英博物館は拒否し続けています。大英博物館の基本的な姿勢は、”文化財は人類の共有物”であり、それをイギリスの博物館に展示するのは”多くの公共の利益”がある、というものです。

過去に行った「悪行」を”人類の共有財産”や”自然保護”などの現代の美徳を使ってなんとか正当化しようとしているかのように見えるこの典型的な理屈は、見るたびにうんざりさせられます。そしてこのような正しい理屈をまとった悪徳がどれだけの人を苦労させているかを考えるとまたうんざりします。

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