2010年5月16日日曜日

[論文]単一の祖先-進化の証拠

A formal test of the theory of universal common ancestry
Theobald 2010, Nature

現存する生命が単一の祖先を持つ、という説は多くの生物学者が正しいと考えている説ですが、この論文はその説を統計的な手法を使って初めてテストしたものということです。結果はやはり考えられていた通り、単一祖先説がもっとも良い説である、というものでした。

多くの研究者にとっては単一祖先説の正しさが示されたことよりも、水平伝播などの影響で、タンパク質ごとに進化の道筋が異なることが示されたほうが興味深いかもしれません。

また全体的に進化的説明の強力さを説いている部分が多く見られるので、はっきりと述べられてはいませんが、創造論者に対する反論も意図しているのかな、と感じました。論文の本文では直接触れられていませんが、テストされた仮説の中には、”人間だけが独立した祖先を持つモデル”が含まれていたりします。結果はそのモデルが最も悪いモデルだったようです。

追記(5月17日)
ナショナルジオグラフィックのサイトに下の文章より遥かにわかりやすい解説記事がありました。

全生物は同じ単細胞生物から進化した - ナショナルジオグラフィック ニュース

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以下詳しい論文の内容

全ての生物は共通の祖先から始まり進化してきたという説、単一祖先(universal common ancestry, UCA)説、は次の2つの事実から多くの生物学者によって支持されてきました。

  1. 生物が使う分子の多くが共通である(核酸、L型のアミノ酸など)
  2. 遺伝子のコードがほぼ全ての生物で共通である

しかし単一祖先説の正しさを統計的な手法を使ってテストしたり、他の説=複数祖先説との比較を厳密な方法で行った研究は今までありませんでした。

この論文で筆者は、単一祖先説と複数祖先説との2つのシナリオのどちらが現存する生物のアミノ酸配列を良く説明するかを比較することにより単一祖先説の正しさを確かめようと試みました。

筆者は現存する3つの生物のドメイン(真性細菌、古細菌、真核生物)の中から4種ずつを選び、それぞれが共通して持つ23のタンパク質のアミノ酸配列を利用して仮説の比較を行いました。単一祖先説は12の種が持つそれぞれのタンパク質が単一の系統樹にそって進化してきたとするモデル、複数祖先説はそれぞれのドメインが個別の独立した系統樹をもつモデルで表現され、それらがどれだけ良く現在の配列を説明するかが比較されました。

その結果によると、単一祖先説は他の可能性(いくつかの複数祖先説)よりもはるかに良く現存のタンパク質の配列を説明できました。単一祖先説は"少なくとも10の2860乗倍ありうる"と、筆者は具体的な数値を示しています。

生命の歴史の初期には多くの遺伝子が水平伝播(horizontal gene transfer、親子間を通さない異なる生物間での遺伝子のやりとり)によって異なる生物種間でやりとりされたり、細胞内共生などのイベントが起こったと考えられています。その影響を考慮したシナリオ(すなわち解析に使われたタンパク質が全て異なる系譜をもちうるモデル)を使った場合、水平伝播を考慮しないモデルより現在の配列をより良く説明できました。またこの場合においても単一祖先説は複数祖先説よりもはるかに良い説であることが示されました。

このような結果から筆者は、生物の系統関係とそれに沿って徐々に起こる変化(すなわち進化)によって配列の類似性を説明することが、複数の祖先を仮定するのに比較して、いかに強力な方法であるかを説いています。

以下メモ
-第一に考えられる問題点は、研究に使われたタンパク質が、そもそも同一の起源を持つ可能性のあるものである、という点。論文のなかでは、筆者はその影響は大きくないと述べている。
-実際にありうる水平伝播を伴った複数祖先のモデルは、複数の系統樹と単一の系統樹がタンパク質ごとに混ぜ合わされたモデル、あるいは、単一の系統樹上に複数のルートがあるようなモデル、だと思う。

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