2010年4月5日月曜日

遺伝子特許は無効?

In Surprise Ruling, Court Declares Two Gene Patents Invalid -Newsweek
End of Gene Patents Will Help Patients, Force Companies to Change -Wired Science

遺伝子に対する特許は無効であるという判決がアメリカの裁判所で出たそうです。

上の記事によると、Myriad Geneticsという会社の遺伝子特許に関する裁判の結果、同社が保持する乳癌と卵巣癌の原因遺伝子(BRCA1, BRCA2)に対する特許は無効であるとの判決が言い渡されたそうです。加えて判決は、全ての遺伝子の特許の有効性に対しても疑問を投げかけたということです。(判決の内容(?)はこちら。英語と法律に詳しい人は読んで内容を教えてください)

裁判は遺伝学者や癌患者等からなる団体と、アメリカ特許庁、特許を保持するMyriad社との間で行われました。判決では、特許の存在は女性から乳癌治療の選択肢を奪っていること、そしてそもそも遺伝子は"自然の産物"であることなどの理由から、BRCA1と2の特許は無効である、とされたそうです。

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特許庁のサイトによると遺伝子の特許が認められるとする根拠は、

自然界に存在する生物から抽出・精製等により単離された化学物質は、機能(例:抗菌作用)が解明されれば特許の対象となる。さらに、病気の治療に用いるといった用途を開発すれば、治療薬等として特許している。

ということのようです。たとえばカビから抽出されたペニシリンのような物質はこれに当てはまると思います。たしかに特定の遺伝子が"自然界から抽出された化学物質"であるならば、医薬品と同様に特許が認められるべきだという意見は筋が通っています。現在でも多くの生物学者が未知の有用な物質を求めて、熱帯雨林の生物を調べて回っているとも聞きます。

一方で遺伝子に対して特許を認めることには、違和感を感じていました。

上の2つの記事にもあるように、"遺伝子は発見されるものであって発明されるものではない"というのがひとつの根拠かもしれません。通常科学的な発見は特許にはなりません。物理学者がブラックホールの特許をとることはできないように、癌の原因の遺伝子を発見しても、それを特許にすることはできないと考えるのが自然だと思います。(もちろん、それを使った癌の早期診断などは特許の対象になるはずですが)

加えて人間の遺伝子は、カビや熱帯産の未知の植物と違って、全ての人が持っているものであることも違和感の原因かもしれません。それをオリジナルの発明として特許を主張するのは奇妙だと感じます。

遺伝子の特許は、人の遺伝子研究を加速させたという点で、有効であったとも思います。多くの研究機関や企業が、病気の原因遺伝子を特定する研究で特許をめぐって競争を行ってきたことは、遺伝子を使った医療の発展を押し進めたはずです。しかし、それによって生まれた特許がさらなる遺伝子の研究や治療法の発展を阻害するのであれば、遺伝子の特許のメリットは失われていくと思います。

記事によるとMyriad社らは控訴をおこなうようです。その結果がどうなるかに注目したいと思います。また日本の大学やベンチャー企業も多くの遺伝子特許を持っているはずです。彼らがどのような対応をするかも気になるところです。

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