2013年8月3日土曜日

[論文]謎の巨大ウイルス

一般向けニュースでも紹介された新種の巨大ウイルスについての論文を読んでみました。

Pandoraviruses: Amoeba Viruses with Genomes Up to 2.5 Mb Reaching That of Parasitic Eukaryotes
Philippe et al. (2013) Science

ニュースのほうは例えばこちら。(論文がオープンアクセスではないので)
パンドラウイルス、第4のドメインに? ‐ ナショナルジオグラフィック ニュース


ニュースでも紹介されている通り、今回発見されたPandoravirus salinusはゲノムの大きさが250万塩基対と通常のウイルスより遥かに大きく、ゲノム上の遺伝子の大部分が未知、ということです。

もう少し詳しく論文を見ていくと、いかにこの新種のウイルスが不思議な生物(?)であるかがわかります。

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Pandoravirus salinusはチリの海底の泥の表面に住むアメーバの中から見つかりました。(もう1種のPandoravirus dulcisはオーストラリアの池のなかからです)宿主であるアメーバに寄生すると、自らのDNAをアメーバの細胞内部に放出し、宿主の細胞質内で増殖します。

ゲノムの大きさはおよそ250万塩基対で、推定された遺伝子の数はおよそ2,500です。この値は遺伝子の少ない真核生物レベルの大きさだそうです。

その2,500の遺伝子のうち、わずか186個(7%)しかNCBI(アメリカ国立生物工学情報センター。大規模な遺伝子のデータベースを公開している)のデータベース上で類似のタンパク質配列が見つかりませんでした。それ以外の93%の遺伝子はこれまで一度も見つかっていないタンパク質をコードしていると考えられます。またデータベース上で類似したタンパク質が見つかったもののうちのいくつかは宿主であるアメーバの配列に似ており、おそらく宿主から取り込んだ遺伝子ではないかと思われます。

これらの未知の遺伝子の機能を配列のモチーフや立体構造を用いて推定した結果、ATPの合成やタンパク質の翻訳といった機能を持つ遺伝子は一切見つからず、やはりこの生物(?)が、その大きさに関わらず、ウイルスであることを示しています。

また、Pandoravirusは遺伝子の一部にdsDNAウイルス(二本鎖DNAで遺伝情報を保持するウイルス)と似たものを持っているけれども、その他の遺伝子は普通のウイルスとまったく異なっていたり、本来ウイルスや細菌の遺伝子にはほとんど存在しないイントロン(タンパク質に翻訳されない遺伝子の領域)を持つ遺伝子を持っていたりします。

筆者らは論文の最後で、ある種のDNAポリメラーゼの配列を比較すると、Pandoravirusを含む巨大ウイルスのグループは従来知られた3つの生物のドメイン(真核生物、細菌、アーキア)のどれにも属さないグループを構成することから、第4のドメインが存在しているのではないか、と主張しています。

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読めば読むほど不思議な生物(?)です。これら巨大ウイルスが第4のドメインを構成するかどうかはまだわかりませんが、生物の未知の多様性を教えてくれる発見だと思いました。

ウイルスの起源や生命の初期の進化について知る重要な手がかりになるかもしれません。今現在、生物は3つのドメインに分類されていますが、もしかしたら将来的にはそれらはより多様なグループの一員に過ぎないことがわかるのかもしれません。

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