2012年10月27日土曜日

ちょっとこわいDNA鑑定

こんなニュースが最近ありました。

飯塚事件:ネガから元死刑囚と異なるDNA 弁護団発表
http://mainichi.jp/select/news/20121026k0000m040111000c.html

もし、この事件が冤罪であれば本当に恐ろしい話です。

少し調べてみましたが、1990年代初頭に使われていたDNA鑑定の方法は、単一の遺伝子座を用いて行うものが主流だったようです。マイクロサテライトなどの繰り返し回数が人それぞれで異なるゲノム上の1領域を増幅して比較する、というのが基本的なアイデアです。

現在問題にされているMCT118法は、ゲノム上のMCT118(別名D1S80)と呼ばれる領域をPCRで増幅し、反復配列の繰り返し回数を調べて個人を特定する方法です。D1S80の繰り返し回数は30種類程度あり、染色体二本分を考えれば、遺伝子型は30×30で、900種類。赤の他人どうしの型が一致する確率はおよそ1/900になる、ということですが...

 単純に考えて10万人の人口の町なら、100人以上同じ型の人がいることになりますから、かなり大雑把だったようです。加えて1/900と言う数は繰り返しの種類が同じ頻度で集団内に存在していることが前提になってます。極端な例を挙げると、もしある反復回数の頻度が50%あるようなときは全体の1/4の人間が同じ型をもつことになりますし、親戚縁者の間では一致する確率が上がることも考えられます。
(例えばカタール人の場合、最も多い2つの多型の頻度がおよそ40%と20%と報告されています。この場合この2つを含む4種類の遺伝型を持つ人だけで全体の35%を超えることになります(計算間違ってるかもしれません))

今回のニュースや以前の冤罪のケースで指摘されたのは、増幅された遺伝子の長さを調べるときのゲルの読み間違えや見落としといったことが問題にされているようですが、どちらにしても精度の低い黎明期の技術を使って死刑という重大な決定をしたのは恐ろしいものを感じます。もちろん当時は信頼に足る技術と考えられていたとは思いますが。

DNA鑑定とは関係がないですが、再鑑定で無罪になったかつてのケースで自白などがあったこともやはり気になります。それらはどこから来たんでしょうか?
DNA鑑定の技術が発展したことによって、犯人を見つけることが容易になったと同時に警察の捜査の問題点も容易に明らかになるのは少し皮肉な気がします。

DNA鑑定の技術自体は、正確さの問題を解消するために、長く改良がなされてきたようです。現在のDNA鑑定は、単一遺伝子座ではなく、複数の遺伝子座を調べて個人を特定します。CODISと呼ばれる一般的な方法では13のようです。この場合たとえ1つの遺伝子が偶然1/100で一致しても、全てが一致する確率は(1/100)13ですから、間違いはほとんどないように思えます。ゲルの読み取りも毛細管電気泳動を使っているはずなので、昔より遥かに正確になっているようです。
(ただし、これらの方法でも偶然の一致は存在するようです。そもそも人間には必ず血縁関係があるので、それぞれを単純に独立したサンプルと考えるは危険なのかもしれません)