2012年9月21日金曜日

ゼロシナリオの話

政府は、2030年代までに原発をゼロにする、とした「革新的エネルギー・環境戦略」を閣議決定とすることを見送ることにしたそうです。

http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120919/20120919_1.pdf

原発ゼロの方針を示した数日後に、このあいまいな内容ですから、「革新的エネルギー・環境戦略」をつくった人たちはどんな気持ちでしょう。

「革新的エネルギー・環境戦略」が出たあと、話題になった討論型世論調査の内容や民主党の提言などを改めて読みなおしてみました。
世間での風当たりは強いようですけど、これらの内容をよく読むと、どうして討論型世論調査で50%弱の人が原発ゼロシナリオに賛成したのかが少し理解できました。

国家戦略室エネルギー・環境会議によるサイトによると、有名な”原発ゼロシナリオ”(ゼロシナリオ)は次のようなものです。

2030年までに現在25%程度の原発依存度を0%にする、同時に現在10%程度の再生可能エネルギーの割合を35%まで引き上げる。火力発電の割合は概ね現状維持で65%程度のまま。また総発電電力量を現在の90%まで節電によって減らす。

それ以外のシナリオは原発の割合を15%か25%、再生可能エネルギーを25-30%ずつ、火力を50-55%にする、というものです(15シナリオと20-25シナリオ)。

こちらのページではそれぞれのシナリオにおける電力料金や経済成長への影響を予測した結果も示されています。これがどのシナリオを選択するかの基準になっていると思います。

特に興味深いと思った点は、どのシナリオでも電力料金は上がる、という点です。ニュースで有名になったように、ゼロシナリオでの料金は最大で現在の約2倍ですが、それ以外のシナリオでも1.2倍から1.8倍に上がると予測されています。 これは火力発電には将来的には地球温暖化対策により多くのコストがかかり、原子力発電には、従来推定されていたより大きな社会的コストが存在するところから来ているようです。 このことは、どのシナリオでも再生可能エネルギーの割合を2倍以上にすることになっている理由でもあるようです。

GDPに対するそれぞれのシナリオを影響予測も似たようなものですが、ゼロシナリオが少しだけ影響が大きいようです。 それ以外に考慮するべき、温室効果ガスの削減、燃料の費用、どれも見た目には大きな違いが無いようにみえます。

少なくとも、僕はこの内容を見る限りでは、ゼロシナリオでもいいと思いますし、討論型世論調査に参加した人もそう感じたのではないかと思います。必ずしも突拍子もない方向性ではないと思います。

それにどのシナリオを選ぶにしても、より持続可能な方向に文明を変化させていかなければならないのは必然ですし。

ただし、これらの予測モデルでは、再生可能エネルギーのコストは将来的に大きく下がる、と仮定されていますし、それらの社会的コストが無いと仮定されています。 実際に再生可能エネルギーのコストが下がらなければシナリオ自体が"絵に描いた餅"になるでしょう。化石燃料発電への依存度の高さも気になります。

全体的にエネルギー・環境会議のサイトを見て好感を持ったのは、できる範囲で、わかりやすく伝えることや議論をオープンにしようとしているのがわかることです。(多くの資料がウェブ上で見ることができるようになっていますし、討論型世論調査の資料(pdf)は分かりやすいと思います) オープンであるから、批判的な意見を述べることもできるわけですから。

 結局政府があいまいな雰囲気の決定にしてしまったのは、国民的議論をするために費やされたであろう努力を想像すると、少し残念な気がします。